調剤業務における「インシデント(ヒヤリハット)」とは、患者に健康被害は発生しなかったものの、一歩間違えれば調剤事故(アクシデント)に繋がっていた可能性のある出来事です。

医療安全の現場では、「インシデント」は事故に発展しそうになった事象そのものを指し、「ヒヤリハット」はそれを見つけた人が抱く「ヒヤリとした、ハッとした」という感情や気づきを含んだ言葉として、ほぼ同義で使われています。
重大な調剤過誤(健康被害が生じるミス)を未然に防ぐため、これら事例の把握と対策が不可欠です。
よくある発生要因と具体例
調剤インシデントは、主に「処方監査(処方せん確認)」「調剤」「監査・交付」の3つのフェーズで発生します。
- 処方監査時のミス
重複投薬の見落とし:複数診療科からの同一成分薬、同種効能薬の重複を見落とす。
相互作用の見落とし:併用禁忌や併用注意の組み合わせに気づかない。
規格・投与量の疑義見落とし:小児の体重換算ミス、高齢者の腎機能に応じた減量指示の見落とし。
- 調剤(ピッキング・計数・計量)時のミス
名称類似薬の取り違え:先発医薬品とジェネリック医薬品(GE)の名称誤認や、パッケージが似ている別薬のピッキング(例:アマリールとアマルゴ、タケプロンとタケキャブなど)。
規格違いの取り違え:同一医薬品の「5mg」と「10mg」、「0.5g」と「1g」などの規格間違い。
数量違い:14日分のところを28日分用意するなど、計算や数え間違い。
剤形違い:錠剤とOD錠(口腔内崩壊錠)、あるいは散剤と錠剤の間違い。
- 監査・交付(お渡し)時のミス
患者誤認(同姓同名):同姓同名や類似した氏名の別人に、お薬を交付しそうになる。
薬袋・説明書の入れ違い:複数の処方を同時に処理し、中身と袋がテレコ(互い違い)になる。
服薬指導の不足:食後・食直前などの用法、吸入器や自己注射の使い方の説明ミス。
5つの再発防止策
ミスを個人の責任にするのではなく、「人間はミスをするもの」という前提でシステムや環境を改善することが重要です。
【 対策の5大柱 】
- 指差し称呼の徹底(規格、数量、患者名のトリプルチェック)
- 視覚的な工夫(類似薬の棚入れ分離、注意ラベルの貼付)
- 調剤監査システムの導入(バーコード照合、重量監査、AI画像認識)
- 4つの目の確保(調剤者と監査者を完全に分けるダブルチェック)
- 心理的安全性の確保(ミスを報告しやすい環境、事例の共有)
指差し称呼とトリプルチェックの徹底
処方せん、薬瓶(PTPシート)、薬袋の3点を、声に出して指差し確認します。特に「規格(5mgか10mgか)」と「数量」は意識して確認を挟みます。
調剤室の環境維持と視覚的な工夫
名称やパッケージが類似している医薬品は、あえて隣同士に並べず、棚の配置を離します。
間違えやすい医薬品の棚には「規格注意」「名称類似」などの注意喚起ラベルを貼ります。
調剤監査システムの導入(IT活用)
バーコード(GS1コード)を用いたピッキング監査システムを導入し、機械的なチェックを行います。
水剤や散剤は、重量監査システムを用いて、計算通りの重さになっているかを自動で判定します。
業務のダブルチェック体制
「調剤した人」と「最終監査をする人」を完全に分離します。
思い込みによる見落としを防ぐため、監査者は前者のプロセスを一度疑う視点を持つことが求められます。
ヒヤリハット報告の収集と共有(心理的安全性)
ミスをした人を責めるのではなく、「なぜそのミスが起きたのか(動線、忙しさ、配置など)」の原因を組織で分析します。
公益財団法人 日本医療機能評価機構(薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業)などが公表している他薬局の最新事例を定期的に確認し、自薬局の業務フローを見直す教材として活用します。








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